中国語の“n”と“ng”は何が違うか
中国語を学習している日本人であれば必ず疑問に思ったことがある、「n」と「ng」は何が違うのかという問題。今回はそのテーマを、諸外国語や日本語の発音に関する問題も絡めて解説したいと思います。
なお、当記事はあくまで直感的なわかりやすさを重点に解説します。厳密には異なる点も多々あるかと思いますので、あしからずご了承願います。
前置き
なぜアルファベット?
中国語に触れたことがない人のために解説します。「n」 とか「ng」とか、なぜアルファベットが出てくるのという話から。中国語学習者の方はスルーしていただいてOKです。
これはピンイン(拼音)といって、中国語の発音をアルファベット表記したものです。わかりやすくいえば、日本語でいうところのローマ字みたいなものです。PCに文字を打つ際は中国語も日本語と同様、アルファベットを入力して、変換候補の中から選択入力するわけです。
たとえば「你好」は“NiHao”です。つまり、日本人が普段使用しているローマ字と同じだと覚えていただいて差し支えないです。
なお、中国語ではこれに加えて声調(つまり音程)の区別があるのですが、それは今回のテーマからは外れるので割愛します。
「n」と「ng」の区別は発音の難関
問題なのは、日本語の「ン」に該当するものが「n」と「ng」の2種類存在することです。両者の発音の区別は中国語を学習する日本人にとって、難関の一つです。
ところで、教科書的にはこれらを鼻母音と総称しますが、あまりその言葉に惑わされないほうが良いです。母音と子音の線引きは曖昧なもので、これらはどちらかといえば子音です。
それはともかくとして、例を挙げます。
- 完(Wan)
- 王(Wang)
日本人の感覚だと、両者の発音はどちらも「ワン」です。しかしネイティヴの中国語話者は両者を明確に区別しています。でも、決して「ワング」ではないですよ(笑)
そもそも区別する必要ある?
ネイティヴが明確に区別しているといっても、そもそも音声とは曖昧なものです。少なくとも聞き取りに関して言えば、音だけで100%明確に区別できるものではないです。
そう思ったことがあって、実際にネイティヴに尋ねてみました。その結果、答えはまちまちでした。
たまたまかもしれませんが、どちらかというと南のほうの人は前者、北のほうの人は後者の回答が多かったですね。
結論として、聞き取りに関してはそこまで神経質にならなくて良いけれども、発音する側としては明確に区別したほうが良さそうです。
中国語だけじゃない
実は中国語だけでなく、英語や韓国語などでも「n」と「ng」の区別は存在します。たとえば、韓国語では「n」に相当するのが「ㄴ」で、「ng」に相当するのが「ㅇ」です。
つまり、日本人が一括りで捉えがちな「ん」の音には、複数のバリエーションがあり、多くの外国語ではそれらを明確に区別しているのです。
もちろん、中国語の「n / ng」と英語の「n / ng」と韓国語の「ㄴ / ㅇ」が全く同じかと言われれば、厳密には違いますよ。けれども、基本的な考え方は同じです。なので、中国語の「n」と「ng」の区別を習得すれば、英語や韓国語も間違いなく上達します!
本題
さて、ここからが本題です。具体的にどうやって区別すればよいのでしょう?
教科書的な説明
ありがちなのが、以下のような説明です。
“「案内」の「ん」が”n”で、「案外」の「ん」が”ng”です。”
と思ってしまいますよね。なので、ググってもうちょっと詳しく調べてみようとするわけです。大抵、語学の権威とも呼ぶべき教育機関のサイトが上位にヒットします。
“舌の位置をどこそこに置いて口をどのくらいの角度で開いて、そこから息と同時に舌を(以下略)”
となって挫折してしまうわけです。正しい説明なんでしょうけど、厳密すぎてあまりピーンと来ないですよね。かえって習得する意欲が失せてしまいます。
もっとシンプルに説明しよう
そこで、私がもっとシンプルに説明します。
以上!!
もうちょい補足
さすがにシンプルすぎたかもしれないので、もう少し補足します。
口を横に開くのが「n」
歯医者さんじゃないですが、「いーー」を言うつもりで口を横に開き、舌を上顎にしっかりとへばりつけてください。その状態をキープしたまま、鼻から声を出すつもりで「んー」と言ってみてください。それが「n」です。「に」に近い「ん」だと覚えるのが良いかもしれません。
難しければ、「に」の口で「ぬ」を言うのが「n」だと覚えても良いです。「ぬ」は「u」の母音を付けないようにする必要がありますが、口を限界まで横に開いていれば母音が出ることはありません。
口を縦に開けるのが「ng」
漫画のワンシーンで、呆れたときの台詞で「あ゛?」とか「んぁ?」みたいなのがありますよね? あれに近いのが「ng」です。ポカーンと口を開いたまま「あー?(何言ってんだこいつ)」のニュアンスで「んー?」と言ってみてください。要するに「あ」に近い「ん」が「ng」です。
実際に発音してみよう
以上を踏まえて、「完」と「王」を発音してみましょう。
まず、「完」(wan)は「ワニ」と言うつもりで「ワン」と言ってみてください。しっかりと「い」の口を作れていますか? 少し「ウェン」に近い音になるかもしれませんが、それで正解です。
次に「王」(wang)ですが、口を大きく開けて「わあ!」と言うつもりで「ワン」と言ってみてください。「わあ!王様だ」と覚えておくと良いです。
奥が深い「ん」の世界
ここからは中国語に限らず、英語をはじめとする諸外国語を含めた話をします。
外国では「n」と「ng」の区別は当たり前
先述の通り、日本人が一括りに捉えがちな「ん」には複数のバリエーションがあります。「n」や「ng」のほか、場合によっては「m」も「ん」に吸収されていたりします。しかし、多くの外国語ではそれらを明確に区別しているのです。
現代日本人の「ん」は「n」ではなく「ng」?
一般的に、日本語の「ん」はローマ字の「n」で表記されることが多いです。しかし実のところ、現代日本人の発音する「ん」は「n」よりも「ng」に寄っているのではないかと思います。
ひとつ、例を挙げましょう。
- 新大阪
これのローマ字表記は「Shin-Osaka」ですよね。しかし、実際のところ現代日本人は「Shing-Osaka」に近い発音をしています。
試しに、英語の音声合成に「Shin-Osaka」と「Shing-Osaka」を読ませてみます。メーカーやバージョンにもよりますが、大抵「Shin-Osaka」を「シンノウサカ」と読むのに対して、「Shing-Osaka」のほうが「シンオオサカ」に近い発音になります。これは何を意味するかというと、「しんおおさか」の「ん」は「n」よりも「ng」に近いということです。もし「n」であれば、「しんのうさか」になって然るべきです。
古代日本人は「ng」よりも「n」寄りだった?
逆のパターンとして、別の例を挙げます。
- 天王寺
大阪人に限らず、大抵の日本人は「てんのうじ」と読めるかと思います。しかし、文字通りに読めば「てんのうじ」ではなく「てんおうじ」になるはずです。「王」という文字を単独で「のう」と読むことはまず無いでしょう。それなのに、なぜ直前に「てん」があれば「のう」に転訛するのでしょうか?
それは「天」(ten)の「n」が、後続の「王」(ō)にリエゾンしているからです。このことから、少なくとも「天王寺」という地名が出来た頃の日本人は「ん」に対して「ng」ではなく「n」寄りの発音をしていたのではないかと思います。
もっとも、当時は漢字にカナを振る習慣があったかどうか怪しいです。そのあたりはもう少し調査して別記事で考察してみたいと思います。
現代日本人が「ng」寄りになる深刻な理由
なぜ現代日本人が「ん」に対して「ng」寄りな発音をしてしまうか。その理由として、口呼吸をしている人や低位舌の人が多いことが関係しているように思えます。つまり、普段から口をポカーンと開けて、デフォルトが「あ」の口になっているからです。
このことは『未来の日本語』の記事でも述べた、やたらと母音を補ってしまう原因とも関係しているように思えます。母音中心の言語を話しているから口呼吸になるのか、それとも口呼吸だから母音中心になってしまうのか…たぶん両方だと思います。
たかだか口呼吸と思われるかもしれませんが、口呼吸は美容、健康、滑舌、判断能力、その他諸々の要素において、全くと言っていいほどメリットがありません。大人になってからでも少しの努力で矯正できるので、矯正することを強くお勧めします。心がけることは、普段から「あ」の口ではなく「に」の口をキープしておくことです。
口呼吸と低位舌を矯正すれば、「n」と「ng」の発音の区別がより容易になります。そうなれば、中国語のみならず、英語や韓国語といった他の言語の習得力も爆上がりします。
中国語の発音の話から随分と飛んでしまいましたが、母言語以外の言語を学習することは、こういった内在的な問題に気付くきっかけもなります。これこそが、語学の最大のメリットといえるかもしれません。
「n」の漢字と「ng」の漢字を見分ける方法
最後に、中国語の話に戻ります。なんだかんだ言っても、日本人は中国語の漢字の読み方を覚える際に、頭の中でカタカナに変換してしまうわけです。そんなとき、この文字の「ン」は「n」のほうだったかな?それとも「ng」のほうだったかな?とわからなくなることが多々あるかと思います。
でも、答えは簡単です。日本語の音読みが「ン」で終わる文字は「n」で、それ以外は「ng」です。ごく一部、例外はありますが、そう覚えて支障はありません。先の例だと、「完」は「カン」ですし、「王」は「オウ」ですからね。
このことから、古代の日本人は中国語の「n」と「ng」の発音をしっかりと聞き分けることができていたということが伺い知れます。もっとも、現代日本語と古代日本語が異なるのと同様に、現代中国語と古代中国語は異なっていただろうと思いますけどね。
「中国語の“n”と“ng”は何が違うか」への2件のフィードバック
いつも不思議には思っていましたが、ちゃんと”g”には意味があったんですね。
参考になりました☆
コメントありがとうございます! 拙い記事で恐縮ですが、少しでもお役に立てて幸いです😊