イチ推し中国歴史ドラマ『燃ゆる呉越』

イチ推し中国歴史ドラマ『燃ゆる呉越』

『燃ゆる呉越』(原題:越王勾践)は2006年に中国国営放送によって制作された全41話で構成される歴史ドラマです。一昔前の作品ですが、私は個人的に海外歴史ドラマの最高傑作だと思っています。

作品概要

制作年

中国国営放送である中国中央電視台(CCTV)が2006年に制作、翌2007年に中国本土で放送された長編歴史ドラマです。日本では2008年にDVDが販売・レンタルされました。

レトロとまではいきませんが、一昔前の作品ではあります。現在ではYoutubeで無料視聴できます。

題材

春秋戦国時代(紀元前5世紀頃)の呉越戦争を題材にした作品です。三国志などに比べると、日本ではまだまだ馴染みの薄い題材です。しかし、「呉越同舟」「臥薪嘗胆」「会稽の恥」など、日本人がよく知っている故事の元ネタです。

作風

特に派手な戦闘シーンも無く、今風の美女イケメンが出演しているわけでもありません。また、あれこれと詰め込まずに、描く対象をメインキャラ数名に絞り込んでいるのが特徴です。

それで全41話もあると退屈しそうに思えるでしょうが、そうならないのがこの作品の凄さです。基本は史実ベースなのですが、なぜか先の展開が気になって、画面に食い入るように観てしまいます。台詞ひとつひとつに重みがあるせいかもしれません。

ライバル作

同じ題材を扱った長編ドラマで、CCTVと香港の民放が共同制作した『争覇〜越王に仕えた男〜』という作品があります。制作・放送年も『燃ゆる呉越』とほぼ同時期ですが、作風は対象的です。

当時のネット上のレビューを見た限りだと、『争覇』は女性視聴者、『燃ゆる呉越』は男性視聴者からの支持が高かったように記憶しています。

メインキャスト

メインの登場人物は以下の5人です。他にも魅力的なキャラはたくさん登場しますが、あくまでメインの5人を物語の主軸に据えており、直接関係しない要素は徹底的に排除されています。

越国

越王勾践

演:陳宝国 (陈宝国,Chen Baoguo)

勾践こうせんは「臥薪嘗胆がしんしょうたん」の故事で知られる越国の王です。一度は呉に敗れ奴隷の身分に落とされるも、最終的に呉を打ち負かし覇者となった人物です。刀剣マニアであり、鋼鉄の精錬に力を入れていたことでも知られています。

本作の勾践はベテラン俳優である陳宝国が演じています。野心家でありながら、少しだけ人情家な一面も覗かせています。

范蠡

演:李光潔 (李光洁,Li Guangjie)

范蠡はんれいは越国の軍師であり、勾践を最終的な勝利へと導いた人物です。中国史上、指折りの名軍師として必ず名前の挙がる人物です。

本作での范蠡は主君を処刑から救うため、理論武装したりあちこち奔走する役回りです。当時若手俳優だった李光潔は本作で唯一、中年女性視聴者に受けそうなキャラです(笑)

西施

演:周揚 (周扬, Zhou Yang)

西施せいしは「傾国の美女」としてその名が知られています。呉王を色香で惑わし滅亡へ追いやった人物ですが、呉王は容姿よりも内面の美しさに惹かれたという説があります。

本作での西施は上記の説が採用されて…と言ってしまうと変に誤解されそうです。けれども、このキャスティングは大正解だったと思います。それは後ほど詳しく述べたいと思います。

呉国

呉王夫差

演:尤勇 (尤勇, You Yong)

呉王である夫差ふさは越王勾践のライバルです。作中ではあまり触れられていませんが、夫差にとって勾践は父の仇でもあります。

暗君として描かれることも多い夫差ですが、本作では性格上の弱点を抱えつつも、一応は名君として描かれています。事実上、夫差が主人公だと言っても過言ではありません。

尤勇(現在は芸名を尤勇智に改名)は『レッドクリフ』(2008, 2009)で劉備の役を演じた俳優です。また、別のドラマでは夫差の父親である闔閭こうりょを演じたこともあります。

伍子胥

演:鮑国安 (鲍国安, Bao Guo’an)

伍子胥ごししょは「屍に鞭打つ」の故事で知られる呉国の重鎮です。その苛烈な気性と鋭い洞察力から、主役サイドである越国に対して最大の強敵として立ちはだかります。

鮑国安はベテラン俳優で、かつて三国志の長編ドラマで曹操役を演じたことがあります。とにかく、目力の強烈な人です。この人に対して、劇中の范蠡みたいに理論武装で反論なんて、絶対にできる自信ないです(汗)

高評価のポイント

さて、こんな昔の作品をなぜ今だに気に入っているか、その理由を一点ずつ挙げていきます。

邦題が神

まず、初めにこれだけは言っておきたい。

邦題がネ申!!

もし原題通り『越王勾践』だったら、おそらく私は視聴しなかっただろうと思います。そもそも、ほとんどの日本人は勾践こうせんって読めませんからね。

しかし『燃ゆる呉越』だと、呉越両国の熱い戦いであったり、男女の熱い恋愛やライバル同士の熱い駆け引き云々を容易に連想できます。この邦題を考えた人、本当にGJだと思います。

重厚感

作風に関する話でも触れましたが、本作ではメインキャラ5名を主軸に物語が展開し、彼らの心理描写を重点的に描いています。その為、重厚感のある構成になっていますが、人によってはそれが退屈に感じるかもしれません。

これは本当に人それぞれ好みが分かれると思います。私の場合は、あまり詰め込みすぎてドタバタした作風よりも、本作のように登場人物一人一人の心理を丁寧に描いた作風が好みです。予備知識の無い題材であれば尚更です。

宿敵同士なのに気が合う

本作の一番の面白さは、主役サイドの越王勾践と敵方である呉王夫差のやりとりです。長年のライバルであり、しかも勾践は奴隷として夫差に顎でこき使われるわけですから、憎み合って然るべきです。

なのに気が合うのか、おっさん2人で釣りを楽しんだり、どうすれば西施のハートをゲットできるんやみたいな恋愛相談までしてしまうんですよ。おそらく、お互い性格も立場も似た者同士なので、当人同士でしか分かり合えない何かがあるんだろうなと思います。

あと、ツボだったのが「英雄にも惨めな時がある」という夫差の台詞と、「英雄色を好む」という勾践の台詞です。いや、それを自分で言うか(笑)やっぱり似た者同士やなーと大笑いしました。

西施のキャスティング

そして大英断だと思われるのが、西施のキャスティングです。

正直なところ初登場時、失礼ながら「え…この人、そんなに美人かな?」と思ってしまいました。なんていうか、普通の田舎のお姉さん(かオバサンか知らんけど)にしか見えないみたいな。

ところが、話が進むにつれて、その真価がわかってきます。男性を言い負かすほど教養豊かで、逆境でもへこたれない気丈な性格。なのに気品があって、ごく稀に甘えてくる…という「権力者が好む女性像」を見事に体現してくれています。

もし、いわゆる「今風の美人さん」がキャスティングされていた場合、夫差が単なる色ボケにしか見えず、それを相手に本気で戦う主役サイドも馬鹿に見えてしまうでしょう。

夫差が色々とリアル

トータルで一番評価したいのは、やはり呉王夫差の描写です。先に述べた勾践との関係もそうですが、とにかくリアルで人間くさい。

勾践を生かしておいては危険だという伍子胥の忠言に夫差が耳を貸さなかったのは何故か。一つはかつてのライバルを手懐けることで自分の威光を周辺諸国に示したいという見栄や野心から。二つ目は、あくまで作中ベースの話ですが、愛する西施の養父だから。そして三つ目は、似た者同士の勾践を自分の理解者のように感じたからだと思うのです。これらが動機だとすれば、夫差がとても人間くさく見えてきませんか?

また、西施を溺愛した理由も納得がいきます。権力者が好むタイプの女性であることは先述した通りですが、もう一点、付け加えておくべきことがあります。それは、范蠡と西施が恋仲であることを夫差は知っている、という点です。范蠡は敵国の家臣でありながら、伍子胥が認めるほど有能。そんな人物の恋人だと知ってしまうと、野心家タイプの男性であれば、ますます自分の女にしたくなるでしょう。

最終的にはこれらの行為が仇となって、滅びの道を辿るのですが、それはそれで滅びの美学のようなものを視聴者に与えてくれます。

主役だって負けていない

夫差ばかりヨイショしてしまいましたが、もちろん主役である勾践も魅力的です。単なる野心家としてではなく、自国の民を守るという責任感や、どことなく現代人的な家族愛などもしっかりと描かれています。また、最終回での豹変ぶりも見所です。

ただ、史実バイアスが入ると感情移入しにくくなってしまうのは宿命ですね。「滅びの美学」の前では「臥薪嘗胆」も霞んでしまうのかもしれません。

最後に

もう20年近く前の作品ですが、今だに私がこの作品を愛して止まない理由が少しでも伝われば幸いです。万人向けかどうかはわかりませんが、ハマる人は絶対にハマります!

あれ以来、中国や韓国の歴史ドラマを何本も視聴しましたが、未だに本作を超える作品には出会っていません。極端に硬い内容だったり、極端に一般視聴者に媚びた作品が増えてきたように思います。

そういえば、2010年のスリキンこと『三国志 Three Kingdoms』は素晴らしかったです。あれは題材がチートで、面白さの種類が『燃ゆる呉越』とは全く別物ですが、あれはあれで別途、レビュー記事を書いてみたくなりました。

あと余談ですが、当記事のサムネは、いらすとやさんの楊貴妃と劉備を西施と夫差に見立てたものです。背景写真は杭州市の西湖で、西施にゆかりの深い湖です。書いているうちに、また行ってみたくなりました。

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